絵本・旅行コラム(パパママコーナー)

三びきの子ぶた

『三びきの子ぶた』
石川晴子 (関西大学非常勤講師)

「三びきの子ぶた」の話を知らないひとはいないでしょう。一ひきめは、わらで家 をたて、二ひきめの子ぶたは木の枝などで 家を作り、どちらもオオカミに吹きとばさ れてしまいます。三びきめの子ぶたはレン ガで家を建てます。オオカミはいくら頑 張っても吹き倒すことができません。さ て、この後はどうなるのか。ここから話は 二種類にわかれます。二ひきの子ぶたがオ オカミに食べられてしまうものと、食べられずにレンガの家に逃げていくものとです。
本屋や図書館には、たくさんの三びきの子ブタも話の本があります。ジョゼフ・ ジェイコブズが再話したイギリスの昔話では、二ひきの子ぶたはオオカミに食べ られてしまいますが、その後オオカミは、レンガの家にいる子ぶたを食べてやろ うと、いろいろ誘いをかけてきます。かぶら畑に行っておいしいかぶらを取ってこ ようとか、果樹園にりんごを取りにいこうかとか、魅力的な提案をするのです が、予想どおり、子ぶたは見事にオオカミを出し抜き、無事に逃げのびます。そ して、最後に腹をたてたオオカミは、煙突から子ぶおやまたの家に入り込もうと します。

子どもたちにこの話を聞いてもらうと、ほとんどの子どもが「ちがう!」と叫 びます。二ひきの子ぶたは食べられず、レンガの家に助けをもとめ、そこにオオカ ミがやってくるというのです。煙突から降りてきたオオカミは、火にかけていた鍋 のなかにすっぽりと落ち込み、すかさず子ぶたがふたをします。それから、ぐつぐ つ煮て、晩ごはんのご馳走にして食べてしまうのですが、ここでひょっとして、 「食べてしまうの?」と驚かれるひともおられるでしょうか。殺したり、食べた り、を避けて、オオカミが逃げ出したり、反省して以後子ぶたと仲良くする、な ど話し手は子どものことを考えて、いろいろ話の結末を工夫して語っているようで す。ジェイコブズが再話した話では、もちろん、子ぶたはオオカミを食べてしま い、それからはオオカミに襲われる心配をすることなく、幸せに暮らします 。

1933年にディズニーが制作したアニメ、「三匹の子ぶたー狼なんかこわくな い」では、子ぶたは三びきとも無事ですし、オオカミもおしりをやけどしただけ で逃げていきます。 ところが、食べられても食べられなくても、変わらないところがあります。オオ カミがわらと木の家を吹きとばすところと、煙突から子ぶたのレンガの家に入り 込んで炉にかけた鍋に落ちるところです。しかも子ぶたとオオカミのやりとりのこ とばは、どれも同じです。英語圏の人たちは昔から同じことばで覚えているので す。そういえば、日本の桃太郎も旅の途中で犬、猿、雉に会うと、「お腰につけ たは、そらなんじゃ?」「日本一のきびだんご」「ひとつください。おともしま す」という問答を交わして、強力な新しい仲間とともに鬼が島にむかいます。仲間 になる動物の種類はいつも決っているし、桃太郎との間に交わされることばはほ ぼ同じです。


ただ、英語の話は日本語に翻訳されるときに、翻訳をする人の感覚によってこ とばが変わります。わたしがおすすめするのは、石井桃子訳です。ぜひ声に出して 読んでみてくだ さい。

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